志摩スペイン村で自作のパエリア昼食、フラメンコ見学や絶叫マシーンに挑戦

小学校6年の修学旅行。私にとってはもう15年も前になるが、今でもあの時のわくわく感はよく覚えている。15年の時を経て、私は「教師として修学旅行を企画する」立場となった。

旅行に行くこと自体がほとんどなかった明治時代の黎明期と違い、 「旅行すること」が日常となった今、教育現場では修学旅行の意味が問われている。
そこで私たちの小学校では、取り組む過程から児童の発想を取り入れ、「児童主体で作り上げる修学旅行」を企画。
修学旅行自体を「自ら考え、計画する学習機会」と捉えることとした。

行き先は修学旅行先として毎年1、2位を争う志摩スペイン村と鳥羽水族館を含めること以外、全て生徒達で相談して決め、バス会社への連絡も生徒達が私と共に行う形で進めた。
午前9時。4クラス112名と引率教員6名が4台の大型バスに分かれて出発。人数確認も生徒達で行い、引率の教頭、クラス担任4名と養護教員は念のための人数確認や見守りを行うだけであった。

最初の訪問先、志摩スペイン村にはお昼前に到着。
すぐにパエリヤ調理実習へ。この体験プログラムは生徒達が決めて予約したもの。
手つきが危なっかしい生徒もいて手助けしたいのを我慢していると、約50分後に我々教員にも生徒作のパエリヤがふるまわれた。
「おいしいね」2~3皿おかわりする生徒は皆満面の笑顔。
こんな顔を見ると教師になって良かったと心から思う。

お腹いっぱいの子供達。でも次々に控えるスケジュールでゆっくりする暇もない。
路上で繰り広げられる陽気なパレードを見ながらフラメンコショーへ。スペイン村へ行くならフラメンコを見たいと、生徒達で上映時間を確認し決めたものだった。
本場の雰囲気あふれる会場での情熱的なショーに私も一瞬、スペインを旅している気分になった。

フラメンコの後はアトラクションエリアのジェットコースターへ。生徒達は吊り下げ式で有名なピレネーやグランモンセラーなどの絶叫マシーンに乗った。
女子生徒に人気だったのはスペインの童話の世界を訪ねるクエントスの森。
絵本の場面が作られ、読み手の声が流れる可愛い散歩道だった。

引率の6教師は、念のため何かあった時の拠点となる「本部班」と各エリアを回る「見回り班」に分かれていたが、何事も起きずスペイン村を後にした。

松阪屋吸霞園で枕投げ大会と日の出の夫婦岩鑑賞

スペイン村から二見浦にある宿泊先までは40分ほど。
生徒達は、バスの中でも自分たちで事前に準備したしりとりや伝言ゲームで楽しく過ごした。
バス会社の運転手さんに「できた生徒さん達ですね」と言われ、ちょっと照れくさくて嬉しかった。

二見浦の松阪屋吸霞園は古き良き和の風情あふれる旅館で、修学旅行を多く受け入れることで昔から知られている。
数ある候補の中から、昔修学旅行で利用したという教頭の希望でここへの宿泊が決まった。

到着すると教頭が宿泊した際の大昔の宿帳を見せてもらう。
何でも教頭が泊まった1960年代初旬にはお米持参で泊まることが当たり前だったそうで、生徒達も驚く。
宿帳には当時の引率教師達が飲んだビールの本数まで記載されていた。
「先生達、俺達にはうるさかったのにさんざんビールを飲んでいたんだな」と教頭。

大浴場で入浴後の食事は、肉あり魚ありの美味しいもので、子供達も教師達も大満足。
食後、生徒達が歯磨きをして寝巻きに着替えた後、教師陣で相談し子供達が短時間枕投げをしていいことにした。

自分たちの計画表では枕投げをしないことを決めていた子供達は目を輝かせる。
「ほんとにいいんですか?ほこりアレルギーの子と、枕投げをしたくない数人の子だけロビーで待ってもらって30分だけやります」なんてできた子供達なんだろう。

計画外の枕投げを楽しんだ生徒達は9時過ぎには寝てしまった。
それもそのはず、翌朝早起きして徒歩7分の所にある夫婦岩からの日の出を見るのだという。

「俺の修学旅行の時は生徒が騒ぐから先生達が廊下で寝ずの番をしてたぞ」と教頭。
「だからビールを飲まざるを得なかったんですよ」と養護教員。
日の出に付き合うことにして教師達も早目に就寝。早起きの甲斐あって、日の出の中で眺める男岩と女岩の景観は感動的だった。

鳥羽水族館でいきもん発見!

2日目は約1,200種類・約3万点もの生き物を飼育する鳥羽水族館へ。日本ではここにしかいないジュゴンや、珍しいマナティやスナメリが見られる。
ここでは「いきもん発見教室」の体験学習がよかった。やはり生徒主体で調べて予約したもので、ひらめの稚魚の体色を調べたり光を当てて骨格を見る、うにやヤドカリを手のひらに乗せるなど、なかなかできない体験は素晴らしい思い出になったようだ。

千と千尋の神隠しのような「おかげ横丁で食べ歩き

鳥羽水族館を出た一行は、一路伊勢神宮へ。
さすが日本一の神社。参道を歩いていても神々しい空気が漂う。
ここで生徒達は自分たちで学習した方法で正しく参拝。
見入る私達も気が引き締まる思いがした。

参拝の後に行った「おかげ横丁」は、まるで千と千尋の神隠しに出てくる商店街のようで、迷路のような作りの中でお土産屋巡りが楽しめる。
生徒達は伊勢名物「伊勢うどん」や精肉店「豚捨」のコロッケを食べ、有名な「赤福 本店」で家族へのお土産を買った。

帰りのバスの中

「修学旅行ってみんなが騒いでもっと大変なものだと思っていたよ」と言う教頭に生徒が一言。
「信頼されて任されていましたから」

騒ぐ生徒と対峙することを想定していた教頭には少し物足りなかったようだが、自分達で考え、作り上げた修学旅行は卒業を控える6年生にとって素晴らしい思い出となったと思う。