◆車イス利用でも遠征したい!

とある高校のマーチングバンドの顧問教諭をしています。

マーチングバンドとは何かというと、行進するバンドの事です。
警察や自衛隊などの音楽隊が行うパレード行進や旗やバトンなどを
用いたショーを行うものなど広い意味で使用されます。

日本ではパレードはもちろん、ショーとしてのマーチングも盛んに行われており、
大規模な大会も存在します。なお、「ドラムライン」という
アメリカの映画で大学のマーチングバンドを題材として扱っていますので、
こちらを観ればどのようなものかわかります。

まずは通常の吹奏楽と同様に複数の楽器演奏によるハーモニーで聴覚的に楽しむ事が出来ます。

これに加え、マーチングでは演奏しながらの
大人数でのめまぐるしいフォーメーション行軍、
旗やバトンをはじめとした大規模なパフォーマンスを行うことで視覚的に楽しむ事ができます。

大規模なフォーメーション行軍も演奏も同時に行い、
さらに大人数で一糸乱れぬ動きが要求されるのでかなりの難易度が要求されます。

これが上手くいくことでまさに視覚的にも聴覚的にも楽しめるショーとして完成します。
この統一感こそがマーチングの最大の魅力で、統一感を出せるよう、
顧問として日々努力して指導をしています。

 

しかし、妹さんが背中を押してくれました。「お姉ちゃんの最後の舞台をつくりたい」
「ずっとむかしからお姉ちゃんの車いすを押してきたから、誰よりも息がぴったり。
それに、お姉ちゃんの気持ちは誰より分かる」と。

こうした後に行われた部内のオーディションに合格すると、姉妹で抱き合って喜んでいました。

その勢いをかって県の全国大会予選も突破し、ついに夢の舞台、
マーチングバンド全国大会への出場権を獲得することができました。

全国大会出場を決めたのはよかったのですが、新たな問題が出てきました。
それは、「どうやって会場の大阪城ホールまで移動するか」。
いつもはご家族の方に送迎してもらっていますが、それにも限界があります。
それにAさんにとっては初めての全国大会、どうせならみんなと一緒に遠征させてあげたい。

車イスとでも一緒に遠征できる手段、これが次の解決すべき問題となりました。

◆ご家族からの提案、大型リフトバス

そんな中、Aさんのご家族から提案がありました。

「Aさんが小学生の時に通っていた施設の旅行で、リフト付きの大型バスを使ったことがある。
それで行ったらみんな一緒でとても良かった。」

調べてみるとなるほど、バス会社には車イスをそのまま載せることのできるリフト付きバスがあって、
これなら大阪へバスで直行することができそうです。料金を聞いてみても、
新幹線に乗って学割で行くより安い、
よしこれに決めた、ということで、部員総勢30名で大型リフトバスを貸し切って、
大阪で開かれる全国大会へ向かうことにしました。

◆大型リフトバスの思わぬ副産物

手配したリフトバスが学校前に到着し、いよいよ出発です。

そして、リフトバスの利用には思わぬ副産物がありました。それは「荷物がたくさん積める」ことです。

普段新幹線で遠征する時には、それぞれの生徒が重い楽器を担いで移動するか、トラックで別途輸送しています。

しかし大型リフトバスを手配した今回は、全てバスに積み込むことができました。
バス会社に事前に「車イス1台乗車で全員で30人+マーチングバンドの楽器が多数」と連絡しておいたところ、
バスは1台分の車イススペースだけでなく、
4台分くらいの車イススペースを確保してバスのレイアウトを考えていてくれていました。

そのため、各生徒の重い楽器も、リフトで軽々と積み込むことができました。
そして、新幹線とトラックで分けて行った時のように、集合時間を定めるなどの段取りも不要にすることができました。

さらにさらに、バス車内がミーティングスペースに早変わり。大会に備えた最終確認を行うことができ、
課題曲を流して各々がイメージトレーニングすることもできました。

今思えば、大会で良い成績を残すのに、この時間は貴重でした。

◆全国大会では見事金賞!

そしてはじまった全国大会。全国から選び抜かれた全25校による熱い演奏が始まりました。

みんなこの日のために練習を重ねたといっても過言ではない大会です。
生徒達には「ベストを尽くせ」とだけ言って送り出しました。
Aさんと妹さんは、「一緒ならできる。笑顔で頑張ろう」と励まし合って出ていました。

課題曲を一糸乱れず見事に演奏しきった姿に、私もつい目頭が熱くなりました。

生徒たちも演奏から帰ってきた時点から、目に涙を浮かべています。

審査結果は、全25校中5校だけが選ばれる『金賞』を獲得!

「夢がかなったよ。最高の舞台をありがとう」とはAさん、
「お姉ちゃんおめでとう、私もとっても嬉しい。来年は私が頑張るね。」とは妹さん。

そして、帰りのバス車内ではジュースとお菓子で乾杯の祝勝会を開くことができました。
みんなで喜びあって、抱き合って、最高の瞬間になりました。

帰りのバス車内というのは、祝勝会を開くのに最高のタイミングだったと思います。

今でもその時の様子が目に浮かんできて、とても幸せな気持ちになります。

◆全員で遠征する、これが大事なんです

こうして、当高校マーチングバンド部とAさん、妹さんは、
全国大会でこれ以上ない成績を収めることができました。

今までも全国大会で金賞を獲得することもありましたが、
今回は今までとは違う喜びがありました。Aさんを含めて
「みんなで」獲得したという意味が非常に多い賞だと思います。

Aさんも妹さんも私も、大会以降マスコミの取材を多く受けました。
こうした取り組みが様々なところで紹介されることによって、
車イスの方でもその他の生徒と変わることなく、
それも一緒に全国大会レベルの大会に出られるようになるというのは、
非常に意味のあることだと思っています。

 

そして、「みんなで一緒」を実現してくれたのは、
Aさんのご家族が紹介してくれた大型リフトバスでした。
私もみなさんにオススメします。車イスの人も、そうでない人も
一緒に移動できるのが素晴らしいポイントです。
そして、車イスが座る場所は車両の真ん中付近になります。
みんなの真ん中、という気がして、その点も素晴らしいと思っています。
ちなみに今回の宿泊は大阪城近くのホテルニューオータニ大阪にお世話になりました。
快適に過ごすことが出来ました、感謝!